「犬猿の仲」のイランとサウジが中国の仲介を受け入れたワケしかし、長年の懸案であったシーア派のイランとスンニ派の雄サウジアラビア王国との手打ちはどうして成り立ったのでしょうか?
そしてどうして中国による仲介を両国が受け入れたのでしょうか?
それは【中国が唯一イランに影響力を行使できる国】であり、サウジアラビアにとっては、【アラブの春が中東・北アフリカ諸国を席巻した際、アメリカと欧米はサウジアラビア王国を捨てましたが、そこに入ってきて国際社会およびアラブ社会でのメンツを保つ助けをしたのが中国だった】という背景があるからだそうです。
以前にもお話ししたように、中国はすでにイランと25年にわたる戦略的パートナーシップ協定を締結してイランとの結びつきを強化していますし、同様の内容をカバーする戦略的パートナーシップ協定をサウジアラビア王国とも締結済みで、すでに両国とも堅固な経済的な結びつきと、影響力を構築済みだったことも大きな背景かと思います。
また今回の仲介を助けた副次的な要因となったのが、サウジアラビア王国とイランの間に位置し、混乱の渦に巻き込まれているイラクにおける中国の影響力の高まりです。
2003年にアメリカのブッシュ政権がサダムフセインの政権を倒し、その後、昨年までアメリカとその仲間たちはイラクに駐留しましたが、政治は安定せず、間にはISの台頭も許すという失態をし、結局、20年近くの試みは見事に失敗しました。狙っていた油田の権益確保、特に第2次大戦後、米英に牛耳られてきた石油権益の再配分というsub-agendaが存在しましたが、その実現も見事に失敗に終わりました。
なぜ中国はここまで中東に肩入れするのか
例えば、イラク政府および世界銀行の出したデータによると、昨年1月から11月にイラクで発注された石油・ガス・電力プロジェクトの何と87%は中国(企業)によるものでしたし、それと並行して行われた政府間交渉で「石油決済に中国元(Yuan)を使用可能にする」という目的も叶えることができました。
特に、通常、米ドルが石油・ガスの決済通貨として位置づけられてきた中、中国元を国際決済通貨にすることが出来たのは大きな収穫と言われています。
この動きは、今後、物理的に隣接するイラン・サウジアラビアとのエネルギー取引でも援用されるとみられ、今後、国際的なエネルギー市場に大きな影響力を持つことも意味します。
この件については、すでにロシアのラブロフ外相もイランやサウジアラビアとの話し合いの際に支持する旨、表明しており、来週にも予定されている習近平国家主席の訪ロの際に、ロシアと中国で新たな国際エネルギー市場の創設に向けた話し合いがなされる中で決済通貨のことも合意される見込みとのことです。
中国がここまで中東に肩入れする理由はいくつか考えられますが、最大の理由は国内の石油消費の7割強を輸入に頼っており、安定調達先を確保することは、第3期目を迎えた習近平体制にとっては絶対的な条件と考えられているということでしょう。
潤沢な埋蔵量を誇り、OPECプラスを通じてエネルギー市場の価格決定権有する3各国(イラン、イラク、サウジアラビア王国)との強い絆の構築と維持・発展は、中国の長期的な発展を可能にする基盤だと考えられているようで、その確保のための政治的・外交的な影響力の行使というのが、今回の和解の仲介という立ち位置と思われます。